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サラ・ランキン博士 Sara Rankin – [DEV] Disabled in STEMM

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サラ・ランキン博士インタビュー 字幕テキスト

脳神経多様性と学習特性

ランキン博士:「脳神経多様性」という言葉をめぐっては英国でもさまざまな議論があり、ツイッターやSNSでその言葉の使い方についてしばしば紛糾することがあります。この言葉がよく使われるようになったのは、ほかの言葉が当事者にとって馴染まないだけでなく、差別的なものに感じられるからです。そこには当事者が「障害」と呼ばれるものについてどのように考えているかという、より大きな問題があります。一部の人はより正確な用語として「脳神経的逸脱(neurodivergence)」という言葉を使いますが、これも正常ではないという言葉です。でも私たちは正常です。確かに分布曲線の端のほうにいるかもしれませんが、私たちは正常の範囲内にいるのですから、異常とか逸脱とか呼ばれるのはあまり納得がいきません。私が気に入っているけれどまだあまり広まっていない呼び方は「脳神経的少数派(neurominorities)」です。このほうが無礼な感じがしないでしょう?

自閉症の人たちに対して「治療してあげよう」という社会的機運がありますが、彼らは治療してほしいとは思っていません。今のままで十分幸せなのです。ですからそれはスティグマや人々のものの見方の問題なのです。私が自分の「障害」についてお話しするときに一番お伝えしたいことは、私自身はそれを「障害」とは思っていないということです。私はそれを単なる「違い」だと思っていて、私には他人とは違う学習特性があるということです。そう思い至るまでには時間がかかりました。私が診断を受けたのは40代後半でしたから。私は他の人とは違う考え方や見方、やり方をします。 それが明確にわかるのは復習です。学校で課される復習は、たいがい教科書を丸写しして丸暗記するように言われます。私はそれがとても苦手でした 私はそうやって断片的な情報を学習しても、それを全体として関連づけることができないのです。そこで私は白い紙の上に絵を描いて、創造的なやり方でそれぞれがどのように関連付けられているのかを理解します。それが科学であっても物事がどのようにつながっているかを知ろうとします。例えば身体がどのように働くのか考えてみてください。心臓が他の臓器と関係なく動いているとは思わないでしょう? つまり何がどのようにつながっているのか全体像を思い描く必要があるんです。そこから改めて細部を掘り下げていけばいい。さらに私は色付けしてコーディングするようにしています。例えば自律神経系と交感神経系について学んでいるときなら、片方を赤、もう片方を青に塗り分けることで、その情報をより記憶しやすくしています。ときには小さなマンガやキャラクターを書き込むこともあります。私は昔よく言われた「視覚学習者」、今でもそういう言葉が使われているのかどうか知りませんけれど、それなんですね。情報を取り込むのに言葉以外の方法を用いることは私が自然と身につけたもので、誰も「あなたは他の人とは違うのだから、違うやり方で勉強しなさい」とは教えてくれませんでした。ですからこれは学び方、やり方の違いなのであって、障害ではないのです。他の人とは異なる方法で情報を処理することで、全く違う解決方法を思いつくことができるのです。世の中の80%の人があるやり方をしていて、あなたはそれとは違うやり方をしているとしたら、あなたはよりクリエイティブで、革新的だということです。いわゆる学習障害のある人たち、特に読み書き障害の人や協調運動障害の人は、とてもクリエイティブであることが知られています。科学者としても革新的で、私自身、科学者として成功したのはそのおかげだと思います。だからこそ私はこれらの特性は障害ではない、と強く思うのです。

歴史をふりかえってみても、多くの科学者に脳神経多様性がみられます。ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズ、イーロン・マスクといった人たちには先見の明がありました。それも大切なことです。まったく異なるアイデアを結びつける洞察力を持っているかどうか、これは私たち教育者が、若い人たちを評価する際に抜け落ちていることです。

大学の入学試験はあなたにとって簡単でしたか?

ランキン博士:いいえ。実のところは失敗したのですが、面接試験があって、それで私は合格できました。大変興味深いことですが、卒業するときには私は学年トップの成績でした。幸運なことに私が当たった試験官は経験豊かな人で、的確な質問をしてくれたのです。私が教授職を得ることになって特別講義をしたときに、彼が聴講に来てくれました。そして私の母に「私はわかっていましたよ。最初に彼女に面接したときからね」といったのです。ですから経験豊かな人なら、その学生にどんな可能性があるか見極めることができるんです。いまの課題はそこにあるんです。若い人たちを評価する方法にミスマッチがある。学校では、えっと、言葉が出てこないわ、そう、事実を覚える能力ばかりが評価されます。物を覚えて事実を思い出すことだけ。私はそういうことは苦手なんです。私の強みはその情報で何をするかということです。それをどのように創造的に応用するか。科学者という職業に就いてやることはそれなんです。ものごとを覚えていることが仕事じゃない。記憶するだけなら他にいろんな方法があります[注:スマートフォンをかざして見せながら]。何かを調べたいなら、すぐに見つけられる時代です。なんでもかんでも自分の頭の中にしまっておく必要などないのです。

起業家・科学者と脳神経多様性

ランキン博士:会社の経営者にADHDの人が多いのは、彼らには驚くほどのエネルギーと意欲と集中力があるからです。そしてその高い集中力が、ADHDの人をカリスマ的なリーダーにするのです。先を見通す洞察力が彼らをよいリーダーにし、それこそが脳神経多様性を持つ人の特長なのです。研究の世界でもビジネス界でも、リーダーになるのは大変です。たぶん大企業のほうが難しいでしょうが、まず管理職にならねばなりません。管理職というのは、とにかく書類を書いて管理業務をやらなくてはいけない。脳神経多様性のある人たちが最も苦手な業務なので、管理職になるのを避けてしまいます。私の場合も、絶対に学科長にはなりたくないのですが、学科長にならなければより上の職位につけません。それが(研究機関の)問題で、そういう人たちの多くが起業家をめざすのはいきなりトップになれるからです。(それに対して)私が問題だと思うのは、科学者になる人がほとんどいないということです。英国の学術界について王立学会が発表した最近の調査結果によると、科学、技術、工学、医学、数学の領域にいる研究者のうち、違う学習特性のある人は0.9%に過ぎませんでした。一般社会においては、様々な学習特性を含めると少なくとも15から20%が該当するとされているのに。これは回答者が自分の学習特性について隠しているか、おそらく一部はそうでしょう、または、自分がそうだということを知らない、もしくは知りたくないのではないかと考えます。様々な団体が啓発活動を行っていますが、言葉を変えて否定的なイメージを払しょくしようとしているだけで、起業家たちやクリエイティブな産業においては変化が起きているのに、科学の世界は変わっていないのです。私が問題だと思うのは、学校にいる若い人たちが、脳神経多様性を持つがゆえに科学を目指すのを諦めてしまうことです。それはとてもクリエイティブで革新的な素晴らしい人たちを逃してしまうということです。私がいるインペリアル・カレッジにも学位取得を目指して数多くの人が受験しますが、面接ではなく点数で評価されますから、いま私が受験したら合格できなかったでしょう。いい大学にはどこにも入れなかっただろうと思いますよ。

キャリア形成について

ランキン博士:私は成功しているように見えるかもしれませんが、実のところそこそこ成功しているだけです。私は自分の研究の3分の1くらいしか論文化できていません。残りの3分の2は最後までやり遂げられないで飽きてしまうんです。飽きてしまって別のことを始めてしまう。なんとか投稿しても査読者からあれこれ注文を付けられると「もういいわ、次のもっと面白い研究があるし」と思ってしまうんですね。論文化できていない研究がたくさんあって、そのことはとても後悔しています。特に振り返ってみると、その当時としては画期的なことを言っているんですね。私の仕事の多くは業界の常識を覆すようなものなので、それゆえになかなか採択されなかったことがあります。私が名前を知られるようになったきっかけの論文は2003年に書かれたものだったのに、それが突然2012年になって世の中から注目されるようになり、あちらこちらの会議に招かれて9年も前に書いた論文について講演することになったのです。今も頑張って発表しようとしている論文がありますが、それは多くの人の考えに逆らうものなので なかなか採択してもらえません。私の考えに賛同してくれる人がほとんどいないのでね。そのため、私はキャリアアップしていくことが非常に難しいと感じています。

脳神経多様性を持つ人々に産業界が注目する

ランキン博士:私はいろんな研究所や企業に講演に行き、なるべく人々に多様な考え方を持ってもらって、脳神経多様性を持つ人たちにどのように働いてもらえばいいか、どのようにサポートしたらその人たちの能力を最大限に引き出せるか、といったことを話しています。先ほど管理業務に関するサポートの話が出ましたが、私が若い頃は経費の精算をしませんでした。もちろんお金はあった方がいいですよ。でも誰かに言われないと自分から書類を書いて出す気になれないんです。結局、半分くらいしか精算しないままです。情けない話ですが、私たちにはそういう問題があるのです。今はマイクロソフトやグーグル、IBMといった大企業が、積極的に脳神経多様性を持つ人たちを採用するようになっています。彼らは私が勤めるインペリアル・カレッジにもやってきて、そちらの最も優秀な脳神経多様性のある学生を紹介してほしいと言ってきます。彼らはこれらの人たちに正しい環境を与えれば、とても価値ある存在になることを理解しているんです。これらの人々は企業にとって貴重な財産となり得るのです。というのもいわゆる直線的、単純な逐次処理的な思考は、いずれ人工知能に取って代わられるからです。企業の人たちは「非直線的思考者」に関心を持っていて、これはまさに脳神経多様性を持つ人たちのことです。彼らこそがチームに創造性や革新性といった要素を持ち込んでくれます。対して会社はいわゆる管理的な側面については彼らをサポートするのです。企業はビジネスを行うために生産性に注目していて、最終結果だけに関心を持っているので、素晴らしいアイデアを持ち込んでくれる人には喜んで管理的業務のサポートをつけてくれるのです。それは本当にエキサイティングなことですよね。

2eMPowerとは何ですか?

ランキン博士:いま私は「2eMPower(トゥーエンパワー)」を慈善団体にしようとしているところで、2022年には正式に承認される予定なんですが、このプロジェクトを始めたのは、私の問題意識として、学校にいる若い人が学問や科学に対する関心を失っているということがあります。学問や科学は自分たちには難しすぎて向かないと思ってしまうのですが、それは成績評価のやり方の問題なのです。そこで私は、14歳から17歳のティーンエイジャーたちを対象にワークショップを開催しています。1つは自閉症の生徒向け、もう1つはADHD、読み書き障害、協調運動障害の生徒向けのワークショップです。ワークショップでは彼らが科学を楽しむことができるようなやり方と環境を提供するんです。たとえば自閉症の生徒たちのワークショップは、少人数で落ち着いた静かな環境で行います。そして自閉症の生徒たちには彼らの才能を伸ばせるように大学の教授に来てもらうのです。なぜなら知的な自閉症の生徒たちは、普通教育では十分に力を発揮できずに飽きてしまうからです。いじめにも遭いやすいので、彼らが関心を持てるものを提供して、自信をつけさせます。もし今の学校生活が必ずしも人生の中で一番いい時と思えなくても、実際には大学やその先があるのだから、今は我慢して頑張ろう。つまらないと思っても、とりあえず投げ出さないで。なぜならあなたたちが科学者になれたなら、きっと夢中になれるから。そう伝えたいのです。科学者になれたらどうなるのかを見せてあげて、彼らが実のところ優れた科学者になる素質を持っていることを教えてあげたいのです。

インタビュアー:ADHDや読み書き障害の人たちのワークショップは?

ランキン博士:そちらはもっと楽しいですよ。彼らはもっとクリエイティブで、活動的ですから、物を書いたりはしません。ただひたすら何かに取り組んで、それについてプレゼンするのです。 科学と起業を組み合わせるような課題もあるので、生徒たちがそれらのスキルを持っているか見極めることができます。今や科学においても起業は重要な要素で、私たちのインペリアル・カレッジでも、起業と起業家精神と技術革新に重きをおくようになっています。いまわれわれは学生たちにこれらのスキルを磨かせようとしていて、実際多くの学生が修士や博士の学位取得後、起業して自分の会社を持つようになっています。我々は彼らを励まし、多くの機会を与え、その領域での訓練を積ませます。もっと若い生徒たちに片鱗に触れさせることで、彼らの中にひらめきを呼び起こしたいのです。彼らの中に眠っている何かに火をつけたい。おそらく一度は科学が面白いと思ったことがあるはず。それなのに科学者をめざすことに対する自信を失いかけている。彼らが試験でAをとれないのは、本来彼らが持っている科学者として重要な能力を評価するような試験ではないからです。

障害学生へのメッセージ

ランキン博士:とにかく科学に対する情熱を持ち続けること。いい成績がとれるだろうかとか、トップになれるだろうかとか心配する必要はないんです。実際今の学校でトップになれなくても、日本の有名な大学の教授になれるかもしれないし、実際に科学者として働きだしたら、自分の強みを生かして科学に打ち込むことができるからです。そのことを「わかっていること」が大事なんです。私は自分がバカではないことはわかっていました。先生たちが何を言おうと、私はバカじゃないということはいつもわかっていたし、いろんなことを理解していました。ちゃんと聞いていれば、人々が私に科学について語ってくれることはすべて意味が分かりました。それは決して難しいことではなく、もしあなたも同じように感じているなら、記憶できるかどうかなんて重要なことではなく、理解できるかどうか、それがすべてです。もし理解できてそれが面白いと思えるなら、あなたはそれを学ぶべきなのです。